おそらくすべて、ただひとえに、一人に宛てた手紙

espoir

espoir.
 
あなたの居ない器なんて
何の意味もない
その窓辺に
あの鳥がもう二度と寄り付くことはない様に
 
そう思っていたのに
焼く勇気が無いのです
わたしには
 
いつか朽ち果てる骸だとて
あなたの御霊が坐した室
 
あなたが愛し、あなたを生かした切なさ
あなたを奪った刹那までに抱いた
そのすべてを、せめて
あなたの後を追うかの様に
刻一刻と宙に帰して
やがて、すっかり別のものと
変わり果ててしまう前に  
まだあなたであった内に残る馨を、
わたしの中に収めてしまいたい
たとえそこに、何の意味もなかったとしても
在ったとしても、
ただのそらごとでしかなかったとしても
わたしの愛を、定義づけるのはわたしだ
わたしが見たものがわたしの世界だ
 
あなたの居ない器に
何の意味があろうか
その窓辺で
あの鳥がもう二度と囀り唄う事はない様に
 
そうわかっているはずなのに
はなす勇気が無いのです
いま、わたしには
 
いつか忘れ去られる運命とて
あなたの御名を生きた音
 
あなたを最期まで、あなたたらしめ、
あなたを奪った刹那まで
そこで果てては生まれてを繰り返した切なさよ
その最後のかたちを、せめて
あなたのその喉骨同様に
灰、そして宙に帰して
やがて、すっかり別のものと溶け合い
変わり果ててしまう前に
まだあなたであった内に残る響を、
わたしの中に収めてしまいたい
たとえそこに、何の意味もなかったとしても
在ったとしても、
ただのそらごとでしかなかったとしても
愛のなんたるか、
命懸けて生きて、駆け抜けた
その姿が、わたしの見た君の言霊だ
命懸けて生きた世界が
わたしの今日であり、来世だ
 
震える唇を指でなぞりながら
あなたが口にした言葉
その後に
わたしが噛んだことで親指から溢れ
流れた血のその赤と味と共に憶えている
 
君はいつか俺を忘れる
それでいい
それでいいんだ
ただし、今から言う
この事だけは、何処かに留めて
憶えておいて
 
生命はその生命が主であり
まして他者のものとするなんて
ナンセンスだと、君はかえすでしょう
それでも、僕は君のものだ
誰がなんと言おうと
それは僕がそう、望み決めた事だから
 
君がいつか俺を忘れても
君が救いを求めたくとも
たとえばそこに誰ひとりとして
君の味方が居ない様に思えても
必ず、手放しで君を支え、
君を守るものがいる
君の幸福を祈り、君を光に
導いているものがいる
 
聴こえるかい?君の魂
君に託したよ
 
あなたを最期まで、あなたたらしめ、
あなたが愛した切なさよ
それはラベンダーの匂い
それは冬の日に流れた星のあと
それは春の夜に咲いた満月
秋の陽が透かして魅せた誰かの影
 
あなたと同様に、
いつかわたしも宙に帰すとしても
今少し
わたしがわたしである内は
 
たとえそこに、何の意味もなかったとしても
在ったとしても、
ただのそらごとでしかなかったとしても
わたしに生きて
わたしと生きて
 
愛のなんたるか、
わたしに触れて
駆け抜けていった風
 
わたしが見て生きた世界が
あなたの過去であり、未来
わたしの今日であり、生命だ